川崎病診断の手引き 第6版 Download > 川崎病(MLCS、小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群)診断の手引き 第6版
川崎病診断の手引き改訂6版 作成の目的、経緯と変更点
日本川崎病学会 会長 高橋 啓
日本川崎病学会 川崎病診断の手引き改訂委員長 鮎沢 衛
委員(50音順)
阿部 淳/伊藤秀一/加藤太一/鎌田政博/小林 徹/塩野淳子/鈴木啓之/須田憲治/土屋恵司/中村常之/中村好一/野村裕一/濱田 洋通/深澤隆治/古野憲司/松裏裕行/松原知代/三浦 大
外部評価委員(50音順) 五十嵐 隆/石井正浩/市田蕗子/小川俊一/寺井 勝/濱岡建城
作成の目的と経緯
川崎病診断の手引きは、2002年に改訂5版が作成され、発熱の定義を「5日以上続く発熱(ただし治療により5日未満で解熱した場合を含む)」とした点と、備考の最後に、容疑例(現在の「不全型」)の存在とそれらに冠動脈病変が合併しうることを新しく明記した点が主な変更箇所であった。
改訂5版施行後、全国的に早期治療の増加と冠動脈病変合併率の低下を認め、その点に改訂は貢献した。一方で「約10%存在する」とされた容疑例(不全型)は増加を示し、最近では全患者の20%以上を占めるようになった。
同時に冠動脈病変の明確な評価方法として、日本人小児の冠動脈内径の標準値が確立され、Zスコアによる病変の判定が可能になった。それらの状況下で、より正確な不全型の診断方法が必要と考えられてきた。また改訂5版では、参考条項に変更を加えなかったため、第4版の記述が30年以上続き、現状に適した内容に見直す必要があった。 そこで、2017年に診断の手引き改訂について、日本川崎病学会運営委員会に諮り、約75%の委員から同意が得られ、日本川崎病研究センターと厚労科研難治性血管炎に関する調査研究班からも同意を得た。
改訂にあたり、2018〜19年に委員会を重ね、原案を第38回日本川崎病学会総会・学術集会(和歌山)に提示して意見を求め, 再度検討して改訂6版最終案を作成した。事前の予想以上に多くの部分が改訂されたが、第122回日本小児科学会に発表し、2019年4月の日本川崎病学会運営委員会および同5月の研究センター理事会で承認された。今後は全国調査も含めて、この診断の手引き改訂6版を使用すると同時に検証を行う必要がある。
以下に主な変更点と解説を記す。
主な変更点
A. 主要症状
6つの主要症状は臨床医に十分に認識されており、基本的に大きな変更はしない方針としたが、以下のような点を臨床現場の要求に合わせて改訂した。
1. 主要症状の発熱に関して、「5日以上続く」と「(ただし、治療により5日未満で解熱した場合も含む)」を削除し、発熱の日数は問わないことになった。現在の治療は90%以上の患者で大量単回投与が行われ、治療開始は約10%が第3病日以前、約35%が第4病日以前にIVIG治療を開始しており、5日未満で発熱の項目を満たさないという判断は現状に必ずしも合っていないと判断した。
2. 従来「不定形発疹」とされていた皮膚症状に、(BCG接種痕の発赤を含む)を記載したため、全体の表記は「発疹」とした。これまで、本疾患の好発年齢とはいえ接種後約1年までの年齢層にしか見られないこと、米国の予防接種では行われていないことなどで、参考条項に留めてあった。しかし、以前から小児科医の多くが、BCG痕の発赤は本疾患の初診時に特徴的な症状であり主要症状に入れるべきと考え、前回の改訂では全国への印刷物にBCG接種痕の変化の写真を載せてその存在を強調していた。今回の検討で、川崎病の診療機会はアジア諸国で急激に増加しており、その多くがBCG接種の実施国であり、やはりこの所見が診断に有用という意見が多いことから主要症状に組込むこととした。実際にこの変更による診断確定例や早期診断例の頻度の調査は今後の一つの課題である。
3. 四肢末端の変化の項で、「掌蹠」を簡潔に「手掌足底」とした。
4. 診断方法とその分類について、これまで同様、6主要症状中で認める症状数と冠動脈病変の有無によって決定する方法をパターン別に記述したもので、実際の臨床現場での検討方法に近い内容と考えている。
aとbは、これまでの全国調査の診断分類で、確実A 、確実Bと集計されてきた5症状以上の場合と、4症状で冠動脈病変がある場合であり、記号を一致させている。
cの記述に相当する場合、すなわち3症状しかない例でも冠動脈病変があれば、「不全型川崎病」と診断することを明記した。他疾患を否定した上での判断であるが、このパターンは委員のほとんどに意見の一致をみた。なお、第24回全国調査に報告された不全型のうちで、冠動脈病変の有無にかかわらず、3症状の例は23%を占めていた。
dは3、4症状で冠動脈病変がないパターンでは、参考条項を考慮するように勧め、特に最初の群として記載した川崎病に特徴的な所見を確認して診断することが必要である。
eは、2症状以下の場合で、冠動脈病変の有無にかかわらず川崎病の診断には特に十分な鑑別診断を行うことを強調し、不全型川崎病の可能性を検討するとした。ただし、診断に日数を要している例では、IVIGの効果によって不全型川崎病と診断されることもあり、川崎病の可能性を考えてIVIGを行うことを妨げるものではない。参考までに第24回全国調査に報告された不全型のうち2症状の例は5.4%、1症状の例は0.7%であった。
Zスコアによる冠動脈病変の評価:この項では冠動脈病変の定義を明記した。基準はZスコアを第一に記載したが、現在の国内における普及性を考えると、実測値での評価も記載せざるを得ないと考え記載した。ただし、従前の厚生省班会議の基準は標本数が不十分なため訂正を加え、5歳未満と5歳以上でのZスコアで+2.5に近い実測値での表記とし、それぞれ3.0mm以上、4.0mm以上を異常とした。これにより、冠動脈病変、特に一過性拡大や小瘤の合併率が変化する可能性があり、今後の検証が必要である。
B.参考条項
参考条項は、これまでの臓器別に列記された記述から、診療上の意義によって各項目を分類して列挙する形式にした。
1. 「主要症状が4つ以下でも、以下の所見があるときは川崎病が疑われる。」として、他疾患に比べ川崎病に特徴的と考えられる所見を、不全型の診断に有用な項目としてまとめた。今後、各項目について診断のために最適なカットオフ値や判定基準を示すための研究が進み、正確性が評価されることを期待したい。
2. 「以下の所見がある時は危急度が高い。」として、従来の参考条項から抽出して4つの所見を列記した。年に数例とはいえ、冠動脈障害の有無にかかわらず、重症例は急性期に死亡することがあり、これらの所見を呈する例の診療では、重症例の管理経験が多い医療施設の協力を考慮すべきである。
3. 「下記の要因は免疫グロブリン抵抗性に関連するとされ、不応例予測スコアを参考にすることが望ましい。」として初診時から評価すべき7項目をまとめた。必ずしも本疾患に特徴的ではないが、治療方法の決定や効果予測に有用である。
4. 「その他、特異的ではないが川崎病で見られることがある(川崎病を否定しない所見)」として、これまでも記載されていた所見のうち必要なものを示した。髄液中の単核球細胞数の増加が髄膜炎以外で川崎病でもみられることなどの確認できることを意図している。改訂5版の参考条項中、上記1〜3へ移動した項目のほかに、微弱心音、胸部エックス線所見(心陰影拡大)、α2グロブリンの増加を削除した。
備考は従来、疫学的な内容を記載する部分であり、致命率、再発例、同胞例などについて、その可能性と頻度を患者家族に説明をすることが必要である。男女比は臨床的な意義が少なく、今回から削除した。改訂5版から主要症状の中で頸部リンパ節腫脹の頻度が低いことを記載したが、今回は、さらに同症状が年長児では約90%に見られ、しばしば、他の症状を認めずに、発熱とともに初発症状となるため「3歳以上では約90%に見られ、初発症状になることも多い。」と注意喚起した。また、細菌性リンパ節炎や咽後膿瘍の鑑別のため外科的処置を議論する際に、川崎病の可能性を考えること、鑑別法として頸部の超音波検査で多房性を示すことが比較的特徴的であり記載した。
最後に、連絡先を日本赤十字社医療センター小児科川崎病研究班から、日本川崎病学会事務局に変更した。
以上が、改訂6版の変更点である。この改訂によって、これまで曖昧な面が指摘されていた不全型川崎病についての認識と診断方針が統一され、ひいては冠動脈合併症がさらに減少することを期待する。